雑感あれこれ

20代のOLもちこの雑感を記すブログ。

【映画】フレッシュ・デリ

 

 前回に引き続きマッツ・ミケルセン出演作。

 今回は2003年デンマーク映画で、監督はアナス・トーマス・イェンセン。今年またマッツ主演で『悪党に粛清を』のメガホンを取った方。こちらは遅ればせながら11月になったら見に行く予定。

 ここから先はネタバレ等全く考慮しない感想になります。結末もバッチリ書いています。今後視聴予定のある方はご注意ください。

 

以下あらすじ。

 嫌われ者で汗っかきのスヴェン(マッツ・ミケルセン)と訳アリ麻薬中毒ビャン(ニコライ・リー・カース)が主人公。ボスの横暴な態度を不服に思った二人は独立し肉屋を開店するも、常に閑古鳥が鳴いている…。

    そんなある日、スヴェンは誤って電気工を冷凍庫に閉じ込めてしまった。翌朝死体を発見し焦った彼は、証拠隠滅を目論みその右足をマリネにして提供してしまう(えぇ…)。しかしそれがなんと大ヒット。店は瞬く間に繁盛店へと変貌を遂げる。スヴェンはこの人気を失いたくないと人を殺し続け、ビャンもそれを黙認してしまう。

    一方、ビャンにも問題が発生する。植物状態だった双子の弟アイギル(ニコライの一人二役)が目を覚ましてしまい家庭内問題(兄弟問題?)再発。絡まる人間模様に摘発されそうになる人肉……二人はどうなってしまうのか!

 

みたいな。あらすじがなかったので、なんとなくまとめてみた。

 またカニバリスムかよ! と思われるかもしれないが、この話、「人肉食(色)」はそんな全面に押し出してこない。レンタル店ではホラーにカテゴライズされていたけど、ホラーでもない。サスペンスでもない。ブラック・コメディというほどでもない。うーん……ドラマ枠? とにかく、ジャンル分けが難しい。微妙なホラー分に微妙なコメディ分、そこに意外にもがっつりヒューマンドラマ! のような感じか。

 何故かというと、コメディっぽい作りにもかかわらず、主人公二人が背負っている過去が非常に重いのだ。スヴェンは幼い頃に両親を亡くし、庇護してくれる存在が誰もいない中でいじめられ嫌われてきた。そんなスヴェンがやっと周囲に認められたと思えたのが、人肉マリネの人気だった訳。だから彼は狂ってると言われながらも次々と人を冷凍庫に入れてしまう。周りの承認を得るために人を殺さなきゃと奮闘するスヴェンが愛おしく見えてくるのはマッツマジックなのかしら(それか私の贔屓目か)。

    また、ビャンの抱える問題もかなり重い。自分より7分遅く生まれたために酸素欠乏を引き起こし、知的障害を負ってしまった双子の弟アイギルへの愛情と葛藤が彼を悩ませる。二人の間に決定的な亀裂を生んだのが、7年前にアイギルが起こした自動車事故。この事故でビャンは両親、妻と愛する家族を失ってしまう(そしてアイギル自身も植物状態に)。が、それは、アイギルが大切に思っている動物(鹿)を避けようとして起こしてしまったものだった。アイギルなりに愛する者を守ろうとした結果、ビャンの愛する者が死んでしまうというなんとも報われない事故……。

 こんな話、どう収拾つけるんだーい!   と思ったら意外にもあっさり解決されていきました。

  • 人肉(殺人)問題→摘発に訪れた保健所の監督には、偶然ビャンがチキンで作ったマリネが提出されていてお咎めなし
  • スヴェンの承認問題→実は人肉の味ではなくスヴェンのマリネ液自体がめちゃくちゃ美味しかったということが発覚、自信を持つ
  • ビャンの兄弟問題→アイギルはお兄ちゃんに歩み寄るため大好きな鶏を殺して持って行き、そんな姿に心打たれたビャンも弟を許す

最後はビャン、ビャンの想い人(長くて名前忘れた)、アイギル、スヴェンの四人で海辺で遊んで大団円。ハッピーエンド。めでたしめでたし!!

 ……って‼ そんなことで良いの⁉ 人肉問題解決したみたいになってるけど、今まで殺された方たち報われなさすぎでは⁉ とか、ツッコミ所満載だと思うでしょう。それが何故か思わないんだな。ラストは謎の爽快感さえある。実はこの間見たデンマーク映画(「En kort en lang」2001)にも同じような感想を抱いたのだけれど(こちらはクィアの問題を扱っているのでもう少ししてからまとめたい)、これがデンマーク映画の「型」なのか⁉︎と思うほど、今までのことが嘘のようにハッピーエンドで幕を閉じるのだ。なんなんだろうね、一番根本のいけない所が解決してないのにすごく満たされた気分になった。この感じはなかなかない。

 前述したように海で四人が遊ぶシーンで幕は閉じるのだが、このシーンがまた印象的。というか、このシーンがあることで大分見方が変わった。ここまでずっとスヴェンとビャン、ビャンとアイギルの相補/相反的関係について考えながら鑑賞していたのだが、海辺で大きなボールを持って対峙しているのはスヴェンとアイギル。二人は互いに大きなボールを持っていて、どちらかが投げないとゲームが始まらないのだがどちらも投げたがらない。挙句の果てにはどちらのボールの方が大きいか、なんてどうでも良いことを争い始めてしまう。そんな二人をビャンとビャンの彼女がなだめる……という構図が展開されるのだが、そこで気づいた。私はずっとこの映画を「スヴェンとビャンの物語」だと考えていたんだけど、違ったみたい。これ「スヴェンとアイギルがそれぞれ抱える問題をビャンの手で解決してもらう物語」だ、と。マリネ液の旨さに気づいたのもアイギルの手を握ってやったのもビャンだったしね。それが象徴的に示されたラストシーンだったと私には思えた。

 ビャン大活躍、というかビャンが居ないとなんともならなかった話の割にはパッケージはスヴェン。コントや漫才にこの映画を例えているブログやレビューを見たりしたけど、やっぱりツッコミ・ビャンは派手に目立つ訳ではないけど、なくてはならない存在なのね。。

    とにもかくにも、パッケージや人肉ホラーという前触は全く関係なく、爽やかな気持ちになった映画でした。

 

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 ↑若かりしマッツはこの作品の為に頭を半分剃ってハゲ再現したそう。